母親の呪い

「母がしんどい」というコミックエッセーがちょっと話題になっているらしい。
読んでないけど、たまたまこの作者の書いた記事をネットで見て本の存在を知った。いい年して親を悪く言うなんてみっともないようなものなので表出しにくい問題なんだけど、心理学とかの世界ではまあまあ言われているらしい「母親の呪い」問題を投げかけるものではあるんだろう。


私がこれに最も苦しめられたのは子供が生まれた頃のこと。それはうつが最も辛かった時期と重なるんだけど。この頃から徐々に自分の中に母の支配的な声があって自分を苦しめるってことに気づくようになった。最も顕著に現れるのが家事、特に整理整頓とか掃除、ぶっ倒れている時以外はかなり家の中をきれいにしていたけど自分ではちっともきれいだと思えず、常になんとも言えない焦燥感があった。完璧にできない場所があることにものすごい罪悪感のようなものを感じる、人間として全く駄目だというあり得ないレベルで。そんな時いつも、「母ならもっときれいにする、しかも短時間で」って思っている。


なんだって、イメージ通りに完璧には物事いかないもので、それはそういうものでしかないんだけど、ここで「人間として最低」とまで感じるのはまるで唐突。それにはやっぱり呪いのようなものがある。念仏のように繰り返されてきた母の言葉がやはりある。教育を越えた不思議なことをある種の母親はやってしまうらしい。家が散らかっていたり汚れているのが良くないのはそういう状態だと物事がやりづらいとか不潔だとかみっともないとか色々困ることがあるからという当たり前のことが何故か「人間失格」にまで飛躍する。このへんが呪われている。


私は終始母の愚痴を聞く役割を担っていたのだけど、一番多いのが父の悪口、祖母の悪口。私にも人をけなすと身も蓋もない言い方をするところがあるけどこっちは母譲りで、完膚なきまでにやっつけないと気が済まないっぽい。一緒に生活している人間を常にそんな風にこき下ろしているのを聞き続けているだけでも尋常じゃないんだけど、「あんなのは人間じゃない」くらいの決定は下すんだから考えてみれば凄まじい。でも私はこの異常になかなか気付かない。


そして、掃除云々の問題については定番で、祖母はほっといたら家をゴミ屋敷にするようなレベルの人だもんでそれが人間失格の悪口になるわけで、これが私の中で一種の強迫になっていた。そこに私はわりと祖母に似ている要素が多いのが関係して説得力を持った恐怖になっちゃったわけなんだけど。


この問題一つに関してはまあまあなんとかなっている。もう、部屋が汚いくらいで人間失格とは感じないし、普通に、「出来る時にやれば出来るんだから大丈夫」ってのほほんと保留にすることができる。「そこまでやんなくてもいいや」とか。自分の快、不快が一番の基準になってる。そんでもまだ、達成感の低さは否めないような気もするけど。


そして、ある程度大丈夫になってみるとわかるんだけど、自分に妙なストッパーをかけて「無理」にしてしまったことは実は「結構出来る」ってこと。ずっと「無理」で保留にして実績というか蓄積のようなものが欠落していることにとても不安を感じるんだけど、それが全てじゃない。普通の人が普通にできるようなことなら心のストッパーが無くなれば別に自分にだって普通にできる。本来さして苦痛なことでもない。なぜなら自分は人間失格なんかじゃ全然無いから。



そんなこともあったけれど、母の異常さにまあまあ客観的になったのは結構最近のことだったりする。
「母の言い分もよくわかる」っていう立場で近年いたんだけど、最近は「何言ってんだこの人???」と首をかしげる事が多い。他人は自分と違う考え方をするものだしそれが全面的に間違っているとか正しいなんてことは無いというのが永遠にわからない人なのらしい。そんで、根本的なところで私の意見が自分と食い違うと物凄いパワーでやっつけてくるので、近年これを避けているんだけど。火の付きそうなことはなるべく口にしない、火が付いてしまったらとりあえず聞いているふりだけしてじっとやり過ごす。とにかく触らないこと。これがなかなかできなっかたねえ・・・・・本当に。どんだけ人権蹂躙されたか・・・・絶対に人に言ってはいけないような言葉をしかもうつ状態が酷い時に吐き散らすってのはなんなんだか。「もう死んでくれ」くらいは何度か言われたと思うけど特に何も言わなかった。そもそもうつなので「死ねるもんならいつでも死にたいけどなーーー」とか無感情に思ってるんだけど。何年か前なら同じセリフを怒りと涙とともにぶつけていたのだろうけど。最近は余りにも耐えられない時は「ただでさえ気分が悪いんだからちょっともうやめて」って言ってやんわり部屋から出ていってもらうけど。叫ばなくなったのは進歩・・・・。私は私で、母がこういう思考回路なのは仕方ないと諦めることができたのである程度冷静でいられるのだ。



これがごく最近のことだ。
あまり認めたくはないけど、私のうつはこの呪いが唯一の原因なのかもしれない。
とにかく長い間のことなので自分で抱いた不安とかとごっちゃになって拡大再生産されてる部分も多いけど。
根本的に自分は間違っていてそもそも生きる資格が無いというのがいつも根底にあるってのが自分のアイデンティティだなんてそんなバカなことはあり得ないよなあ。