猫の里親となって一月半、逃してしまった。
まだ、あまり人馴れしていない、やっと、触れるようになった、そんな時に。
近隣を捜したり、ポスター、ネットへの書き込み、一通りのことはしたけれど、
警戒心が強く、人前には出てこないように思うので、たぶん、見つからないだろう。
野良猫として生まれ、数ヶ月で保護され、1歳になる頃に家に来た。そして先日、外へ。
あの子は、3回もの生活の激変を課された。いつも、やっと、その暮らしになれた頃に、人間に環境を変えられてしまった。
混乱してどこかに潜んでいたら忍びないと思ったが、玄関に置いた、匂いの染み付いた寝床では他の猫が寝ていたくらいなので、既に移動しているようで、ワンブロック先で出ていった日の夜半に見かけたきり。
一週間、もう、私のことは忘れかけている頃だ。
この辺りは野良猫への餌やりも多いようで、野良猫は多く、皆、よく太っている。
ああいうふうになれれば良いけれども。
捜して回るのはもう、無駄。
情報が入ってくることがあれば動いて見ようとは思うけれど、それで捕まえることが良いことなのかどうかも、わからない。
また新たに怖い思いをさせてまで、やるべきことなんだろうか?
食べ物にありつくことが出来てさえいれば、まずます安全な寝場所がありさえすれば、野良猫も悪く無いことだろう。
室内外猫ののんびりとした暮らしと、どちらがより良いのかなんて、人間の価値観で色々判断しているのに過ぎず、本当のところはわからない。その個体によっても異なるだろうし。


野良には野良の生き方があり、家猫には家猫の、
今は、比較的、野良には生きづらいだろうが、どっちがより幸せかなんて、人間の勝手な価値判断だ。
猫には長年人に飼われてきた歴史があり、だから、人に飼われる適応力がある。
一方、野性的な面も持っている。だから、脱走猫は後を絶たない。
どちらか一方で生きられるなら、どちらでも、それがその子の運命。
室内外で安全に長生きするほうが幸福、野良で病気や怪我などの危険にさらされるのは不幸、とは言い切れないだろう。
しかし、人の勝手で環境を何度も変えられてしまうことは、生命に関わる、迷惑なことだ。
野良→保護→里親→脱走
こんなもん、最悪だ。
けれども、済んでしまったことは、仕方なく・・・・
どうか!生き抜いてくれ!と、祈ることしかできない。
私もまた、甘い記憶に苦しまされるが、そんなもの、あのこの試練に比べようもない。
もう、帰ることは出来ないのだから、どうか、強く、生き抜いてくれ。
・・・・ああ、でも、可愛かったなあ、初めて触れることができたその時の、少し恐れながらも、うっとりと横たわっていたきみの横顔が目に浮かぶ。この小さな生き物を、その生命の尽きる日まで共に過ごすのだと、心に決めていたというのに。


なんで、あんなときに、あんなミスをしたのか、わからない。
風呂場の脱衣所の窓を、網戸とは逆の方向に開け放してしまったらしい。
記憶にない・・・。
そんなこと、今まで、したことないのに、何故・・・。猫がいる時に限って、何故?
こういうミスって、単なる偶然なんだろうか・・・?


猫には迷惑な話だが、この手の事件には、自分にとって、なんらかの、気付くべきことがあるのだと、
私はそう考える。人生は、そのように考えなければならないと思っている。
なにかに気づかないと、繰り返し、似たようなことが起こり続けるのが人生だと思っている。
だから、考えなければいけないと思う。


昔、家に猫がいた。昔のことで、放し飼い。
2匹の猫が寿命を全うした。両方とも、身を隠す形で亡くなった。
いつか、自分の責任で猫を飼いたいと思っていた。
今こそ、と思って決断したのだけれど、違ったのかもしれない。
こんな、家の中が荒れている時期に、せめて猫の癒やしを、なんて、バカな思いが祟ったのかもしれない。


やっと猫が慣れてきた頃、母と、同じ日に2度口論となった。
猫が傍の寝床で寝ているのに、まだ母には全く慣れずに怖がっている時なのに、私は声を荒らげてしまっていた。
抑えるべきだった。
それでも、母に好奇心を持って近づきつつあったので、考えすぎだったかもと思ってたけれど、
彼女がいなくなった日、心に浮かんだのは、
こんな家、居たくないよね、猫だって・・・。動物って、そういう空気、感じるよね。
そういう気持ちが、無意識のうちに、うっかりミスになって、本当にそういう結果になるって、よくあることだ。


そして、やんちゃで、好奇心旺盛で、人に慣れにくく、そんなあのこには、
元々外の生活のほうが向いていたような気がして仕方ない。
どっちにしろ、もう、戻ることはできない、強く、生きてくれ と、強く思う。
それは、あの子に向けた言葉だけれど、それだけだろうか?
私もまた、今こそ、もっと、強く、そして自由にならなければならない時に来ている。
そういうことではないだろうか・・・・・。