映画「黙秘」:娘セリーナのほうの視点から

スティーブン・キング原作の「黙秘」って映画を見た。
んだけど、これが、ニコニコ動画ってので見たもんで、画面のコメントがうざい、でもちょっと気になる、、、困ったもんだわ。無料なのでしょうがないけども。
ああいうのにコメントすること事態が子供っぽい行動なので、コメントのレベルは低くて当然だけど、それでも、大多数の人の物の見方は伝わってくる。やはり、自分はズレてるなーって思うね。


あの映画のキャラクターの男性たちはかなり醜悪に描かれている。
それは、根底に男性優位社会の歪みが流れているからで、それと戦う女性たちの物語という側面もある。
本流は家庭という問題なのだけども。
女性たちは3人ともひどく個性が強すぎるキャラなんだけど、見ているうちに、その過剰な強さが優しさやかわいらしさと同質のものであることがリアルに感じられていくのは圧巻だ。
愛情あふれる女達は家庭という閉鎖空間の中で虐げられ自分を守っていくために必要な強さを身につけていったのだろう。その強さの影にやさしさや繊細さや純粋さが満ちている。表面的には3人ともただただ口の悪い強い女なのだけど。


母親のドロレスが、参ったわ・・・。
私の母と似たタイプだもんで。表面的には辛辣でも、がんばって母親として娘を守ってきた立派な母親なのは、序盤で見えてくる。もう、すっごく強い人で、エライのだ。とことん立ち向かって逃げないのだ。今はなき旧き良き時代?の母親だ。
完璧主義で口うるさいヴェラの家政婦を長年務めるのだけど、まあ、がんばるがんばる・・・・。娘のために頑張れたし、ヴェラとの友情のために頑張れたのだよね。立派だよ、非の打ち所がないよ。あーもーおがーざんごめんなさーーい!と叫びたくなるわ。。。


娘のセリーナは、父親から性的虐待を受けた過去があるのだけれど、その事実を自分の心の中に抑圧して忘れてしまっている。仕事はがんばって成功しているけど、心が不安定な弱い女性だ。そして、母に対しての誤解もあって、強い母親に対してひどく反抗的な態度を取る。
私はかなりこの反抗的なセリーナに感情移入ができちゃうんだけど、ニコ動のコメの酷いこと。(笑)
ラストで、封じ込めていた父親からの虐待の記憶を取り戻し、「母が(母自身のために)父を殺したのかもしれない」という誤解が解け、母親のヴェラ殺し疑惑を取り払っていくに至るまでは、セリーナは「愛情深い立派な母なのに反抗的で弱いわがままな娘」にしか見えないんだよねー、きっと。


そんでも、この映画はさすがにそんな風に一面的にはできてないところが凄いね。キングだからねー、心の闇は掘るからねー。(笑)
誤解がこじれにこじれるのには、どうってことない日常の事柄が加担しているってこともごくごくさりげなく表現されている。


ちょっと目を引いたのは、帰省した娘の荷物を勝手に開いて、乱雑にぶちこまれた衣類なんかを手際よく綺麗にで整理していく母ドロレス。やー、参ったねー、これ。さすがに勝手に荷物は開けないけど、ほっといたら当たり前のように私の身の回りを片づけてしまう私の母とそっくりだわ。これ、結構きついんだよね。そんなことする必要ってある?これ、娘のほうが甘えん坊さんな性格でない場合には実に迷惑だったりする。そして、やっている方のマメな母親には悪気なんか無くて、ただ、「散らかってたら片付けたくなってしまう」だけなんだよね。でも、私とかセリーナみたく自立コンプレックスの強い娘にとっては、当て付けとは言わないまでも微妙に非難されているような感覚になる。わりとありがち。


そして、酷い夫や酷い雇い主にも屈しない母親ドロレスは立派ではあるけどもちっとも幸せなんかじゃなさそうで、こういう姿って娘にとっては苦しいものなんだよね。なんだかんだ言ったって、子供はお母さんのことが大好きなんだもん、お母さんの不幸なんか見たくない、それが自分のためなら尚更、同じ女性であるなら尚更。
一方、母親という生き物は子供のために自分が犠牲になるのなんか全然平気だったりもする。ドロレスくらいになるともう、自分が娘に嫌われようが恨まれようが、それさえ些細なことだ。どんなことしたって娘の不幸なんて許さない、くらいの感じ。だから実のところはあんまり不幸なんかじゃない。
こういう行き違いが母娘の間にあるから、余計にこの二人はどうにもしっくりいかないのだ。


ドロレスが直感的に父親からのセリーナへの虐待を悟ったシーンも凄くて・・・。この性格の母に、全てを悟って何も言わずに受け止めるなんつー芸当は無理なわけで、セリーナを強く問い詰めてしまう。愛情ゆえの行動なので真っ当なことなんだけど、こーれは、セリーナはたまったもんじゃないよ・・・・セリーナの方は母と違って繊細で、そんなに強くなれないんだよねー。
薬に依存しようとするセリーナに対しても、強いドロレス全開で。正しいんだよね。正しいんだけど、「10分だけ待って」って何度も言うセリーナの言葉を無視するってのはねえ、そこまでやらんでも待ってあげりゃいいじゃん・・・。


もう、こういうのはいちいち、私と母の間の葛藤とかぶるわけで。
私は弱い、弱いのはよくない、でも、強いあなたが「あんたは弱い、強くなれ」と怒鳴って、そんで、それって何になるの?という・・・・。弱い人間にさらなる恐怖を植え付けているだけだってことを、正しいことを言う人は、わかることができない。


さらに、意地悪なヴェラのもとで家政婦をしなければならない学のないドロレスと、頭が良くて美人のセリーナとの対比。「頭が良くて美人なのになんであなたは」とドロレスは言うけど、セリーナの心の傷は深いんだもん。
父からの性的虐待、仲の悪い両親で父を殺したかもしれない母、母が殺人の容疑をかけられたことで周囲から受けた仕打ち。全て、まだ9歳の頃に起こったことだ。
「あなたは乗り越えたじゃない」とドロレスは言うけど、乗り越えたんじゃなくて、虐待の事実を忘れてしまうことで自分を守っていただけ。


母の告白のテープを聞いて事実を思い出したセリーナは、警察で母のヴェラ殺し疑惑を否定する検証をする。ここでの彼女の聡明さ、強さ。口の立つ母ドロレスは一言も発しない。そこには、もう、守るべき娘では無い、自分の力で歩いてきたセリーナの姿が克明に見える。だから彼女は何も言わないのだ。


母の告白を聞いて反抗的だった自分を改心して成長した、なんていう見方はつまらない感想だ。告白によって取り払われたのは誤解の部分に過ぎない。多くの傷を負って記者として生き抜いてきた彼女は既にどれだけ頑張ってきたことだろう。それを母の目の前に示すことができたことが凄いことなのだ。


ドロレスは愛情深い強い母だ。それはとてもすばらしい生き様なのだけど、このお話はセリーナの視点からも見ることができればより深みが出る。